「そもそも非球面レンズってどんなもの?」


 メガネ店に立ち寄って非球面レンズの説明を受けた方も沢山おられるかと思いますが、皆様が異口同音にして今ひとつ「非球面レンズというものの意味がよくわからない」とおっしゃいます。
 高校の数学で「離心率」が出てきます。つまり
離心率=0
0<離心率<1
離心率=1
1<離心率
-----真円
-----楕円
-----放物線
-----双曲線
 を指しますが、光学で述べる非球面とは真円以外の二次曲線等の回転面を意味します。もっとも身近な非球面の実例は、ご自宅の屋根や屋上で見ることが出来ます。
 簡単に言うならば、ちょうどボールを投げて地面に落下する軌跡が放物線を描きますが、この放物線を回転面にした形状を放物面と呼ぶ非球面を指します。
 電波を受信するパラボラアンテナ(画像左)が放物面です。球面では下の画像のように中心と周辺での焦点位置がズレてしまうので、電波が1点に集中して電界強度を強める構造が必要です。非球面は二次曲面である放物面の他にも楕円面や双曲面、偏球面や後半で解説する多項式で示される高次曲面(4次曲面、6次曲面、8次曲面)などが実用化されていますが、メガネでは2次曲面の非球面が用いられています。
 非球面レンズは収差補正が主目的なのですが、多くのメガネ店はレンズの厚さのことのみが特徴かのような説明は誤りです。後半で詳しく説明しますが、非球面レンズの厚さは度数だけでなく非球面の形状係数との関わりもあり、値のとり方によっては球面レンズよりも肉厚にすることも出来るのです。
 一般的にレンズメーカーの勉強会では数学的構造の解説が割愛されているので、非球面レンズについて怪しげな説明のサイトが多数散見されます。ここではできるだけ詳細に非球面について解説いたします。また、このページと高屈折レンズのページには関連がありますので、あわせてご覧下さい。



球面レンズについて
 まず非球面レンズの説明の前に球面レンズについてお話しなくてはなりません。
 
球面設計とは、左図のように球心(R)を中心にして半径rの軌跡をもつ円の回転面の形状を指します。2つの円が交差している(L)の状態は物側のrと像側のrの等しい両凸レンズと呼びます。(実際のメガネレンズはメニスカスレンズの状態になっています)
 小中高校の理科の授業では、すべて球面レンズの説明しか出てこないためにレンズの作図では球面レンズにおいてすべての入射光は一点に収束するようなイメージがありますが、実際には単色光でなければ収束しません。
 球面レンズはなんといっても設計も製作もシンプルであることから量産しやすく、歩留まりが良いことで古くから採用されてきました。レンズの度数が小さいものでは色収差の影響が少ないのですが、強度の場合には急速に増大するために非球面設計の必要性が叫ばれるようになりました。
 

非球面レンズの特徴は収差補正にあり
 実際にメガネ店にあるメーカーの販促ツールでは左のような画像を見せられたことがあるでしょう。なかには実際の非球面レンズのサンプルを設置してこのような状態を見せられた方もおありだと思います。
 これは非球面レンズの1つの特徴である球面収差の補正状況を示しています。画像の右側のレンズの状態が遠視用の球面レンズで見た状態を示し、左側がやはり遠視用の非球面レンズで見た状態です。球面レンズでは周辺がかなりゆがんでいるのに対し、非球面レンズではほとんど平坦な画像を示しているのがお分かりでしょう。

 当社の考案する非球面のチャートではもっとレンズの性質が良くわかるものです。これによると右側の球面レンズの良像範囲がわかるだけでなく、周辺がぼやけてにじんでいるのがわかります。このにじみが色収差です。非球面の方はそのにじみがあまり出ていないのがわかります。これが非球面の特徴で色収差を軽減することができます。
 最近はメガネフレームの小口径化によって良像範囲の部分だけで見るような場合には影響が少ないかもしれませんが、やや大きめなサイズのメガネではそうはいきません。その場合は非球面レンズのほうが適しています。

 カメラや望遠鏡ならば、複数の屈折率の異なる球面レンズを貼り合わせた色消しレンズ(2枚合成ならアクロマート、3枚合成ならアポクロマート)を使用できますが、メガネレンズは1枚の単焦点レンズです。従ってレンズを非球面加工することで中心から周辺にいたる光線の合焦位置のズレを抑制することができるのです。
 ガラスレンズでの非球面加工は球面研磨用のツアイスタイプ・レンズ研磨機が一貫して使用できません。非球面化係数の小さいものは最初に球面化してから部分研磨法で徐々に非球面化するため手間と時間がかかり、歩留まりの悪いものでした。
 非球面レンズは面精度がシビアで、検査と研磨を繰り返して行うため、必然的にコストが著しく高くメーカーの採算性が悪いものでしたから量産が困難でした。
 現在はプラスチック素材の精密モールド加工ができますので、実用的な面精度を持つ非球面レンズを製造できるようになったのです。日本はこの精密モールド技術では世界トップクラスですので、低コストで高性能の非球面レンズ製造が可能になりました。
 余談ですが非球面レンズって、皆さんが使用しているCDやDVDの信号を拾い出すピックアップレンズに使用されているのをご存知ですか。しかも発明したのは日本の東北大学の有名な先生です。同先生は、かつて無散瞳眼底カメラも発明されたことでも知られています。


非球面レンズは視線移動に効果あり 



 非球面レンズを単体で考えるよりも、実際のメガネの状態で説明するとその効果がよく理解できます。
 メガネをかけて視線を移動するときは左の図のようになりますが、その場合右目と左目の移動量(回旋角度)が大きく異なります。レンズから移動物体の距離が近いとさらにその角度は深くなります。図中の角度Aにおける視線方向の球面収差量は角度Bの収差量よりも大きいことがわかります。厳密にはレンズの厚みの違いは光の回折量も異なりますので、薄型非球面レンズではこの点の問題でも有利ですので視線方向の移動でも視界の平坦性が向上します。
 右上の図のように球面レンズを使用するとレンズの中心からの距離が離れるほど球面収差の増大によって画像の周辺像が変形して像質が低下します。ですから球面レンズの使用では周辺像の変化を抑えるためにある程度弱めに調整する必要があります。球面レンズを使用していて同じレンズ度数で非球面レンズに切り替えたときに全体が弱めに感じるのはその逆説的な理由のためです。
 非球面レンズは球面レンズに比べて著しく球面収差が少ないので周辺像の劣化が少なく、広視界において視力が得られます。もしスポーツなど動きが激しい方でしたらその影響も大きいかと思われます。またパソコン作業や自動車の運転をされる方など視線移動が頻繁に行われる場合に最適です。


非球面のメガネは球面以外の2次曲面

 ここから少々話が難しくなります。
左の式(*1)は非球面を含む高次曲面を構成する関数です。下の式のA,B,C,D,E,項は2次曲面以上の高次曲面を扱う場合に必要です。
 式中のKの値により球面以外の2次曲面は放物面や双曲面、偏球面、楕円面になりますが、メガネメーカーは強いてその関数の種類を公表しません。公表しなくてもレンズの表面をフーコーテストという曲面の形状検査方法を駆使すればたちどころにわかってしまいますが....それはさておき、非球面レンズの場合もう一つ重要な要素に形状係数というものがあります。形状係数が大きいと中心と周辺の厚みの差が大きくなり、小さければその逆です。ですから形状係数の大きい非球面レンズもあるので、非球面レンズが必ずしも全て薄いレンズではありません。メガネ用レンズでは収差補正と軽量化という目的があるので可能な範囲で形状係数を小さくする必要があります。
 メガネの非球面レンズでは片面非球面と両面非球面がありますが、片面の場合ベースカーブを3カーブでとり、両面では4カーブをとっいてます。3カーブのレンズの周辺厚みは4カーブに比べて薄型となりますので、両面非球面レンズは片面非球面レンズよりも厚くなります。しかし両面非球面のほうが片面非球面レンズよりも良像範囲が広がり、広視界において良好です。


非球面レンズの種類
 メガネ用の非球面レンズは大別して2種類あります。レンズの片面だけが非球面のものと両面が非球面のタイプです。非球面の面数が1面と2面では収差に差がつくことと、周辺部までのコントラストが高い(下の画像)ことが上げられます。HOYA社はこの考え方を発展させて、遠近用の累進レンズ設計に両面累進設計を取り入れて歪みの少ないレンズを開発しています。



球面の
良像範囲


片面非球面の
良像範囲


両面非球面の
良像範囲


 特に近視または遠視の強い方や乱視の強い方、さらに左右の度数差が大きい方はこの差を顕著に実感できることでしょう。しかし度数の弱い方で日ごろメガネをあまり掛けない方でも、装用時のギャップが小さいので案外両面非球面のほうが楽だとおっしゃる方も多いようです。



非球面レンズのまとめ
 非球面レンズを使用すると下記のようになります。非球面レンズは究極のレンズです。当店ではご使用目的や度数により最適なアドバイスをいたしておりますので、是非とも下の一覧を参考にしてご相談ください。

非球面レンズのメリット
1.球面収差の補正で良像視界が広い。良像範囲=両面非球面>片面非球面

2.色収差の補正でにじみが少なく鮮明でコントラストが良い。
3.高屈折球面の欠点を補えるので薄型レンズが製作できる。
4.厚さが薄いと光の回折量が小さくなり像の揺れが少ない。
5.曲率が小さいと像倍率も下がる。
6.高密度素材のレンズの場合は形状変化が小さい。
7.低屈折レンズや遠近両用でも著しく効果が高い。

 筆者は大学生(1970年代後半)の頃、大学のコンピュータで4次曲面をもつ反射アプラナート光学系やカタジオプトリック光学系の非球面レンズの形状シミュレーションを行うソフトウェアを開発しておりましたので、非球面レンズは30年以上前から関わっておりました。メガネの非球面レンズについて、一般的なメガネ店にあるメーカーの説明ではあまりにも舌足らずであり、消費者の皆様に誤解や拡大解釈の可能性がありましたので、専門的ではありますがペンをとった(キーボードを叩いた)次第です。

式(*1)の出典 アストロフォトクラブ(www.astrophotoclub.com)

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